〜風の通り道〜
第3回
お母さんの背中を支えたい

 国男さんが今命の闘いをしています。29歳、12kg。障害名はピエールロバン。固形物を飲み込めないのでミルクだけで29年間生きてきました。人間が大好きな彼は朋に来るのが何よりの楽しみ、玄関を入ったときからニコニコ笑顔が始まります。そんな彼につられて私たちもニコニコ顔になります。彼は笑顔製造人間なのです。朋ではストレッチャーに乗って移動します。彼の体調が崩れ始めたのは今から4年前です。ある日グループの中で急に顔色が悪くなりました。急いで2階の診療所に連絡、ドクターが診察、救急車がくるまで待てないと判断したドクターは即座に挿管という処置をとりました。それは突然来た緊迫した時間でした。救急車を待つ間お母さんが「店はやめる。これからは国男に全力投球する」と思い詰めた声でいいました。彼の家は焼き鳥屋さんでした。日中仕込みをして、夕方から夜中にかけて商売をし、寝付くのはいつも2時から3時という生活でした。
 国男さんはその後何回も呼吸の状態が悪くなり入退院を繰り返しました。お母さんはとても気丈な方です。まだ焼き鳥屋さんをしていた頃、日頃みんなのお世話になっているからと、年に一度のバザーでねじり鉢巻き、「今日は国男のために焼き鳥、思い切り焼くよ!」と煙で目を真っ赤にしながら奮闘している迫力には圧倒されたものでした。
 そんな彼女がきっぱりと焼き鳥屋さんを止め国男さんに全力投球と決めたのです。何回かの入院の体験を経て、今では国男さんの様子のキャッチと吸引や看護の技術はどんなベテラン看護婦さんより的確です。ドクターもお母さんの判断を全面的に信頼しています。この1年、退院と入院の間隔が短くなり、入院期間が長くなりました。挿管も度々になりました。
 国男さんは海が好きです。今のお母さんの祈りはもう一度海を見せたいということと、もう一度朋に通わせたいということです。お母さんは決して涙を見せません。病室では看護婦さん相手に冗談の連発です。でも心のずっと奥でいっぱいの涙を流しているのをドクターも看護婦さんも私たちも知っています。
 お母さんと二人で守ってきた命の旅。何にもできない私たちはただただお母さんの背中を支えていきたい病院に行くのですが、さらに小さくなった体で一生懸命笑顔を見せる彼と、明るいお母さんから反対に励まされて帰ってきます。そして二人が今お互いのために全力で生きている事を強く感じるのです。



製作:「朋の時間」製作委員会
配給:「朋の時間」上映委員会

(2003年度公開作品/ビデオ・長編ドキュメンタリー/カラー/123分)



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